魚の町、静岡県焼津市にある動物病院のブログです。☎ 054-628-6468

蛋白喪失性腸症ってどんな病気?POMRって???

蛋白喪失性腸症は名前の通り消化管から蛋白や脂肪分が漏れ出すため、栄養分を小腸から吸収出来ずに痩せてしまう厄介な病気の症候群です。当院では先月に蛋白喪失性腸症の症例が1例ありましたが、今回のブログでは診断に至るまでのプロレスをご紹介します。

実際の臨床の現場でよく使用されている診断アプローチ法に問題指向性医学情報記録システム(POMR:Problem-Oriented Medical Record)があります。この診断法は臨床的な問題を多くのデータから確認し、その問題点をいろいろな検査を使って突き詰めていく方法です。このアプローチ法により一つの症例をあらゆる角度から広くみていくことで見逃しや誤診をなくし、問題点を絞っていくことで無駄な検査をしないで済むことになります。
まずはデータ集めです。症例は推定10歳の雑種犬のメスで、避妊手術はしていません。予防は狂犬病接種のみです。主訴は最近痩せてきた、元気がない、後肢が弱くなってきた、数日前から食べなくなった、とのことでした。身体検査では重度の削痩と、入院中に脂肪便がみられました。脂肪便は小腸性の下痢の時によく見られる症状です。四肢は筋肉の委縮はありますが骨格器、神経系は正常で自力歩行は可能です。

ちよこ


ここまでのところでこの症例の問題点は元気、食欲の低下、重度の削痩と小腸性の下痢です。もう少し問題点を絞るために血液検査をしてみましょう。

血球検査では総白血球数の上昇(23200/μl)がありました。好中球、単球は上昇していましたが、リンパ球は低下(464/μl)していました。赤血球系は軽度の貧血がありました。生化学検査では総蛋白(4.3g/dl)、アルブミン(1.6g/dl)、総コレステロールの低下(119mg/dl)が認められました。

さらに画像診断です。レントゲン検査では、小腸内のガス貯留がみられましたが、腹水の貯留はありません。超音波検査では小腸の内腔部の拡張や欠如、小腸周囲の高エコー像等がみられました。リンパ管拡張症の時に認められる粘膜層の高エコーラインは認められませんでした。

蛋白喪失性腸症3
蛋白喪失性腸症4

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これらの検査から問題点はさらに絞られてきました。体重減少、慢性小腸性下痢、低アルブミン血症の3点をさらに検討していきます。今回は低アルブミン血症にスポットを当ててみましょう。

ここで登場するのが除外リストです。低アルブミン血症の除外リストは以下のようになっています。

産生の低下
 肝不全
 吸収不良
 消化不良
 飢餓
 高γグロブリン血症
喪失
 出血
 蛋白喪失性腸症
 広範な皮膚の浸出性病変
 腎性喪失
 敗血症
隔離
 腹水・胸水の貯留
 血管炎
希釈
 過剰輸液


この症例の場合は肝不全はないですから、アルブミンの産生の低下のカテゴリーには当てはまりません。腹水や胸水もないですから、隔離もないです。輸液はしていませんから希釈もないです。こうしてリストから考えられる疾病を除外していくと喪失のカテゴリーが残ります。その中で最も診断として可能性が高いものを選ぶと蛋白喪失性腸症が残ります。

治療のプランも重要です。まずはこの病気の一般的な治療を開始します。そして定期的に治療の反応を評価し、それによってまた新たな治療プランに変更することになるかもしれません。オーナー様へのインフォームドコンセントも大切です。最終的には飼い主様のご意向に沿って治療していくことになります。

蛋白喪失性腸症の確定診断には内視鏡検査、または開腹術による腸のバイオプシーが必要になりますが、実際の臨床現場においては患者へのリスクやコストの面で躊躇せざるをえないのが実状です。それでもPOMRによる暫定的な診断で実際に目の前で苦しんでいる動物に対して一刻も早い対応が臨床の現場では最も重要ではないかと、いち町医者としては考えます。