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犬のエプスタイン奇形の一例

今回は犬の先天性心疾患でもかなり珍しいエプスタイン奇形について、実際に撮った心エコー画像などを見て頂きながらまたまたザックリとご説明します。

エプスタイン奇形は胎生期の三尖弁形成過程の一部障害で、三尖弁の変形が生じて起こる先天性疾患です。

右心房と右心室を仕切っている三尖弁が右心室の心尖部側へ落ち込み、三尖弁逆流を起こし、その結果右房容積の増大、右室の容量負荷からうっ血性右心不全に陥ります。

さらに右房圧の上昇、肺血管系への前方血流の減少が起こると左心低負荷となり、全身血流量が減少すると重篤な症状を呈します。



症例はラブラドールレトリーバーの雑種犬、約1歳の雄です。
狂犬病予防注射の検診時にLevineⅡ/Ⅵの収縮期心雑音を右側三尖弁領域にて聴取しました。
健康状態は良好で心不全時の発咳や運動不耐性は認められませんでした。

レントゲン検査では右房の軽度の拡大、心陰影の左側への偏位等がありました。

心電図検査においては深いS波、右軸偏位等が認められました。

次は心エコーです。まずは右傍胸骨左室長軸四腔断面像を見てください。
右房の拡大と三尖弁の中隔尖が心尖部側に16㎜ほど偏位しています。前尖はカーテン様に大きく見えます。
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続いては右傍胸骨左室短軸像です。
右心室圧の上昇による心室中隔の扁平化が見られます。向かって右が拡張期、左が収縮期です。
心室中隔偏位



カラードプラでは右心房内に大きな乱流のジェットが収縮期に認められます。
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心エコーの最後は左傍胸骨心尖部四腔断面像です。
この断面においても三尖弁の心尖部側への偏位、右房の拡大は顕著に見られます。
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この断面をカラードプラでみると、右心房内に乱流ジェットが見られます。
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三尖弁の逆流速をパルスドプラで測定すると2.833m/sでしたので、簡易ベルヌーイ式から圧較差は32.1mmHgとなります。右心室圧は三尖弁圧較差に右心房圧を加えたものになりますので、右心房圧を10mmHgと仮定すると42.1mmHgとなります。
圧較差



右心房拡大が認められた時の鑑別診断リストは下記のようになります。

三尖弁逆流症
犬糸状虫症
拡張型心筋症
肥大型心筋症
心房中隔欠損症
心房細動
右房性三心房心

エプスタイン奇形は心房中隔欠損症を併発することもありますが、心エコーにおいての診断は短絡血流がカラードプラにおいてモザイクを示さない2m/s以下のことが多いため困難です。犬糸状虫症は抗体価検査で陰性でした。心房細動はありませんでしたが、上室性頻拍を起こすことがあり経過観察が必要です。他の疾患に関しては心エコー所見から除外できると思います。

治療は容量負荷を基本的病態とするものと、圧負荷を基本病態とするもので大きく違ってきます。容量負荷と圧負荷のいずれかが基本病態かを鑑別するには右心室圧を測定すればよいとされています。要するに右心室圧が高ければ圧負荷が優位となりますが、具体的な数値は未だに示されていません。一つの目安としては三尖弁の逆流速が3m/sを超えると圧負荷とすると記述のあるものもあります。今回の症例においては、三尖弁の逆流速が3m/sには達してはいないので容量負荷に対する治療がbetterであると思われますが、教科書的なプロトコールは存在しないので実際にはこの様な症例に遭遇した獣医師の個々の判断で治療していくのが現状です。